代謝機能障害関連脂肪肝炎におけるセマグルチドの第3相試験

セマグルチドは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であり、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の治療薬候補として注目されています。

本研究は現在進行中の第 3 相、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験です。肝生検により MASH および線維化ステージ 2 または 3 と診断された患者 1,197 人を、2 : 1 の割合で週 1 回 2.4 mg の皮下注射によるセマグルチド投与群またはプラセボ群に割り付け、240 週間にわたって治療を行っています。

今回は、最初の 800 名を対象に、72 週目に実施された中間解析の結果(パート 1)が報告されました。パート 1 の主要評価項目は、肝線維化の悪化なしに脂肪肝炎が改善することと、脂肪肝炎の悪化なしに肝線維化が改善することの 2 つです。

結果は、肝線維化が悪化せずに脂肪肝炎が改善した患者の割合は、セマグルチド群で 62.9 %、プラセボ群で 34.3 %でした(推定差:28.7 ポイント、95 % 信頼区間:21.1~36.2、P<0.001)。

脂肪肝炎が悪化せずに肝線維化が改善した患者の割合は、セマグルチド群で 36.8 %、プラセボ群で 22.4 %でした(推定差:14.4 ポイント、95 % 信頼区間:7.5~21.3、P<0.001)。

主要な副次評価項目 3 つのうち、脂肪肝炎の改善と肝線維化の改善が両方とも見られた患者の割合は、セマグルチド群で 32.7 %、プラセボ群で 16.1 %でした(推定差:16.5ポイント、95%信頼区間:10.2~22.8、P<0.001)。

体重の平均変化は、セマグルチド群で -10.5 %、プラセボ群で -2.0 %でした(推定差:-8.5 ポイント、95 % 信頼区間:-9.6~-7.4、P<0.001)。

身体的な痛みに関するスコアの平均変化は、両群で有意な差は認められませんでした。

消化器症状の副作用(例:吐き気、下痢など)はセマグルチド群で多く見られました。

中等度から高度の肝線維化を伴う MASH の患者において、週 1 回 2.4 mg のセマグルチド投与は肝臓の組織学的改善をもたらしました。

Semaglutide in Metabolic-Related Steatohepatitis


今後の代謝機能障害関連脂肪性肝疾患 MASLD および代謝機能障害関連脂肪肝炎 MASH の治療は、GLP-1 受容体作動薬および GIP/GLP-1 受容体作動薬が中心になっていくことが予想されます。

肝線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎 NASH に対する Resmetirom の第 3 相ランダム化比較試験

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、承認された治療法がない進行性の肝疾患です。レスメチロム Resmetirom は、肝線維化を伴うNASH の治療のために開発されている経口の肝臓指向性の甲状腺ホルモン受容体 β 選択的アゴニストです。

肝生検によって確認された線維化ステージ F1B、F2、F3 の NASH 患者を対象とした第 3 相試験が実施されています。患者は、1 日 1 回 80mg または 100mg のレスメチロム、またはプラセボを受け取るように 1:1:1 の割合でランダムに割り当てられました。主要評価項目は、52 週時点で肝線維化の悪化を伴わずに NASH が解消(NAFLD activity score の 2 点以上の減少を含む)すること、および NAFLD activity score の悪化を伴わずに肝線維化が少なくとも 1 段階改善することでした。

全体で、966人の患者が解析対象となりました(80mg レスメチロム群 322 人、100mg レスメチロム群 323 人、プラセボ群 321 人)。肝線維化の悪化を伴わない NASH 解消は、80mg レスメチロム群の患者の 25.9 %と 100mg レスメチロム群の患者の 29.9 %で達成されましたが、プラセボ群では 9.7 %でした(P<0.001)。NAFLD activity scoreの悪化を伴わない 1 段階以上の肝線維化改善は、80mgレスメチロム群の患者の 24.2 %と 100mg レスメチロム群の患者の 25.9 %で達成されましたが、プラセボ群では 14.2 %でした(P<0.001)。ベースラインから 24 週時点までの LDL コレステロールレベルの変化は、80mg レスメチロム群で -13.6 %、100mg レスメチロム群で -16.3 %でしたが、プラセボ群では 0.1 %でした(P<0.001)。下痢と吐き気は、プラセボよりもレスメチロム群でより多く観察されました。重篤な有害事象の発生率は、試験群間で差はありませんでした:80mg レスメチロム群で 10.9 %、100mg レスメチロム群で 12.7 %、プラセボ群で 11.5 %。

N Engl J Med 2024; 390:497-509

レスメチロムの 80mg 用量と 100mg 用量は、NASH 解消と 1 段階以上の肝線維化の改善に関してプラセボよりも優れていました。レスメチロムの長期使用の安全性はまだ評価されていません。この試験は、肝硬変への進行を含む肝臓関連の転帰を評価するために、54 か月まで継続される予定です。

NAFLD、NASHの病名変更について

欧州肝臓学会(EASL)と他の団体は、非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)と非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)などの脂肪性肝疾患の名前を変更しました。これは、”alcoholic”が「飲んだくれ」、”fatty”が「太っちょ」という意味でとらえられ、印象が悪いからです。新しい名前では、脂肪性肝疾患を「steatotic liver disease(SLD)」と呼び、従来のNAFLD,NASHはメタボリック症候群の基準の一部を満たす場合に限定して,「metabolic dysfunction associated steatotic liver disease(MASLD)」、「metabolic dysfunction associated steatohepatitis(MASH)」と診断することになりました。また、アルコール性肝疾患は「alcohol-associated (alcohol-related) liver disease(ALD)」、飲酒量がアルコール性肝疾患とNAFLDの中間でメタボリック症候群の基準の一部を満たす場合は「MetALD」、NAFLDでメタボリック症候群の基準のいずれも満たさない場合は「cryptogenic SLD」、薬物性、Wilson病などに起因する場合は「specific aetiology SLD」と診断されます。
日本肝臓学会もこの変更に賛成し、新しい名前に従ってガイドラインを改訂する予定になっています。日本肝臓学会からのお知らせ
当ホームページにおいては、当面は従来の名前のまま記事を残しますが、新しい名前が一般的になれば、記事内の名前を変更していく予定です。

非アルコール性脂肪肝炎におけるFGF21アナログ(ペゴザフェルミン)のランダム化対照試験

線維芽細胞増殖因子 (FGF21) アナログpegozafermin(ペゴザフェルミン)は、 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)および重症の高トリグリセリド血症の治療薬として開発中です。 NASH患者に対する有効性と安全性が二重盲検無作為化プラセボ対照第IIb相試験ENLIVENで検討されました。

肝生検でNASHが確認され、 肝線維化ステージF2またはF3の患者が、以下の群に無作為に割り付けられました。

ペゴザフェルミン 15mg群:週1回 皮下投与
ペゴザフェルミン 30mg群:週1回 皮下投与
ペゴザフェルミン 44mg群:2週に1回 皮下投与
プラセボ 週1回投与群:週1回 皮下投与
プラセボ 隔週投与群:2週に1回 皮下投与

主要評価項目は以下の2項目です。
24週時点でのNASHの悪化を伴わない線維化の改善
24週時点での線維化の悪化を伴わないNASHの消失

結果
肝線維化が改善した患者の割合
プラセボ群:7%
ペゴザフェルミン 15mg群:22%
ペゴザフェルミン 30mg群:26%
ペゴザフェルミン 44mg群:27%

NASH消失を達成した患者の割合
プラセボ群:2%
ペゴザフェルミン 15mg群:37%
ペゴザフェルミン 30mg群:23%
ペゴザフェルミン 44mg群:26%

ペゴザフェルミン療法に関連した最も一般的な有害事象は、 吐き気と下痢でした。

この第Ⅱb相試験では、 ペゴザフェルミンによる治療は肝線維化の改善につながりました。 今後、ペゴザフェルミンの第Ⅲ相試験への進展が期待されます。

R Loomba et al. N Engl J Med 2023;389:998-1008.

NAFLD から MAFLDへ

脂肪肝の患者の多くは肥満や耐糖能異常などの代謝異常を合併しており、これらの代謝異常は肝線維化の進展、動脈硬化性心血管疾患や患者予後に深く関わることが明らかになってきています。

脂肪肝は、飲酒量が少ないかあるいは飲酒をしない非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)と飲酒量の多いアルコール性脂肪肝に分けられてきました。非アルコール性とは、飲酒量がエタノール換算で男性30g/日未満、女性20g/日未満のことをいい、中等量の飲酒(エタノール換算で男性30~59g/日、女性20~59g/日)はNAFLDからもアルコール性肝障害(エタノール換算60g/日以上)からも除外されるため、病気としての意義が十分に検討されていませんでした。最近の研究では、中等量の飲酒は肝線維化のリスク因子であることがわかってきました。

NAFLDの診断は、ウイルス性肝疾患や自己免疫性肝疾患などの慢性肝疾患を除外して行うため、これらの慢性肝疾患とNAFLDの病名を併記することができませんでした。しかし、これらの慢性肝疾患における脂肪肝の合併が、病態に影響することもわかってきており、脂肪肝の評価を含めて管理していくことの重要性が認識されるようになってきました。

脂肪肝患者診療における代謝異常の重要性が認識されるようになったことを受けて、代謝異常を合併する脂肪肝のことを metabolic dysfunction-associated fatty liver disease (MAFLD) と命名し、その診断基準が提唱されています。

MAFLDの診断基準

これまで併記できなかったウイルス性肝疾患、自己免疫性肝疾患、アルコール性肝障害などとも併記することが可能で、他の肝疾患の原因治療や節酒・禁酒指導とともに、代謝異常に対するアプローチの重要性が明確になりました。

原発性胆汁性胆管炎に対するSeladelpar(第II相臨床試験)

原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者に対する現在の治療オプションは、効果が不十分であったり、望ましくない副作用があったりするため、最適とは言えません。PBCの新規治療薬であるSeladelparを2、5、10 mg/日と用量を増やしながら1年間服用したPBC患者では、主要な肝機能検査において臨床的に有意で用量依存的な改善が認められました。治療は安全であり、患者の自己報告による痒みのスコアの悪化とは無関係でした。

A phase II, randomized, open-label, 52-week study of seladelpar in patients with primary biliary cholangitis. Journal of Hepatology, 2022.

著者らは、ウルソデオキシコール酸(UDCA)投与中あるいは 不耐性の疾患進行リスク(アルカリホスファターゼ[ALP]が正常上限の1.67倍以上)を有する成人原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者を対象に、選択的ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体 PPAR-δ アゴニストである Seladelpar の有効性と安全性を検討しました。

本試験は、52週間の第II相用量設定非盲検試験で、患者は12週間、Seladelpar 5 mg/日(n=53)または10 mg/日(n=55)に1対1で割り付けられ、2 mg/日(n=11、中間解析後の英国施設)にも割り付けられました。その後、投与量を10 mg/日まで増量することが可能でした。主要評価項目は、ベースラインから8週目までのALPの変化としました。

ベースラインのALPの平均値は、2mg、5mg、10mgの各コホートでそれぞれ300、345、295 U/Lでした。患者の21%が肝硬変を有し、71%がそう痒症を有していました。投与8週目におけるベースラインからの平均±標準誤差ALP減少は、2mg群(n = 11)、5mg群(n = 49)、10mg群(n = 52)でそれぞれ26 ± 2.8%、33 ± 2.6%、41 ± 1.8% (all p ≤ 0.005) でした。用量漸増後の投与開始52週目では、2mg群91%、5mg群80%で奏効が維持または改善されました。投与開始後52週目における複合効果(ALPが正常上限の1.67倍未満、ALPが15%以上低下、総ビリルビン正常)は2mg群で64%、5mg群で53%、10mg群で67%であり、ALP正常化率はそれぞれ9%、13%、33%でした。また、5mg、10mg群では、痒みの視覚的アナログ尺度(Visual Analog Scale)VASスコアが低下しました。治療に関連した重篤な有害事象はなく、有害事象による投与中止は4例でした。

Seladelparは、疾患進行のリスクを有するPBC患者において、胆汁うっ滞および炎症の生化学的マーカーの、強固で用量依存的、臨床的に有意かつ持続的な改善を示しました。Seladelparの安全性と忍容性は高く、そう痒症の増加も認められませんでした。

非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) 患者の転帰に関する前向き研究

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の全死亡、肝疾患および肝疾患以外の疾患による予後についてはよくわかっていません。著者らは、多施設の NAFLD 患者を前向きに追跡し、死亡とその他の転帰の発生率を、ベースライン時の組織学的特徴に基づいて比較しました。

1773 人の成人 NAFLD 患者を 4 年間(中央値)追跡しました。全死亡率は肝線維化ステージが上がるにつれて上昇し、ステージ F0~F2 (線維化なし、軽度~中等度の線維化あり)では 100人年あたり 0.32 件、F3 (架橋線維化あり)では 0.89 件、F4 (肝硬変)では 1.76 件でした。肝関連合併症の発生率も肝線維化ステージが上がるにつれて上昇し、F0~F2/F3/F4において静脈瘤出血 0.00/0.06/0.70 件、腹水 0.04/0.52/1.20 件、脳症 0.02/0.75/2.39 件、肝細胞癌 0.04/0.34/0.14 件でした。また、肝線維化ステージ F4 の患者は、F0~F2 の患者と比較して 2 型糖尿病の発生率も高く( 7.53 件 対 4.45 件)、腎機能低下(推算糸球体濾過量 eGFR の低下が40%を超える)の発生も多くみられました( 2.98 件 対 0.97 件)。心臓関連イベントと肝臓以外の癌の発生率は、各肝線維化ステージで同程度でした。年齢、性、人種、糖尿病の有無、ベースライン時の組織学的重症度で補正すると、いずれかの非代償性肝硬変イベント(静脈瘤出血、腹水、脳症)の発生は、全死亡率の上昇と関連していました(補正ハザード比 6.8、95%信頼区間 2.2~21.3)。

成人NAFLD患者の臨床転帰

まとめると、NAFLD 患者を対象とした今回の前向き研究では、肝線維化ステージ F3 と F4 は、肝関連合併症と死亡のリスク上昇と関連していました。これまでの報告の多くは後ろ向き研究でしたので、今回のような大規模な前向き研究の結果は、患者さんへの助言に有用と思われます。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2029349

NASHは肝細胞癌に対する免疫療法の抗腫瘍効果を制限する

肝細胞癌(HCC)には、ウイルス性のものと非ウイルス性のものとがあります。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は非ウイルス性HCCの原因として重要です。免疫療法はHCCの治療に承認されていますが、治療への最適な反応を得るためのバイオマーカーによる層別化は確立されていません。

著者らは、NASH誘発HCCモデルにおいて、PD1をターゲットにした免疫療法が腫瘍内の活性化CD8+PD1+ T細胞を増やすも、腫瘍が縮小しないことを発見しました。このことは、腫瘍の免疫監視機構が損なわれていることを示しています。予防的に抗PD1薬を投与した場合、NASH-HCCの発生率および腫瘍結節の数とサイズが増加し、これは肝臓のCD8+PD1+CXCR6+, TOX+, TNF+ T細胞の増加と相関していました。抗PD1薬によって引き起こされるHCCの増加は、CD8+ T細胞の欠乏やTNFの中和によって阻止されました。このことは、CD8+ T細胞が、免疫監視機構を活性化または実行するのではなく、NASH-HCCの誘導を促進することを示唆しています。同様の現象は、NAFLDまたはNASHの人の肝臓から採取されたCD8+PD1+ T細胞でも見いだされました。

著者らは、進行したHCCに対する抗PD1薬あるいは抗PDL1薬の効果について調べた3つの第III相臨床試験についてメタアナリシスを行い、免疫療法が非ウイルス性HCCの患者の生存を改善しなかったことを明らかにしました。別の2つのコホートでは、抗PD1または抗PDL1療法を受けたNASH-HCCの患者は、他の病因の患者と比較して全生存期間が短いことが示されました。

まとめると、非ウイルス性HCC、特にNASH–HCCでは、NASHに関連した異常なT細胞の活性化が免疫監視機構の障害につながる組織損傷を引き起こすことによって、免疫療法に対する反応性が低い可能性があることが示されました。進行したHCCに対する免疫療法を考慮するときは、背景肝疾患に注意する必要がありそうです。

Pfister, D., Núñez, N.G., Pinyol, R. et al. NASH limits anti-tumour surveillance in immunotherapy-treated HCC. Nature 592, 450–456 (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03362-0

非アルコール性脂肪肝炎に対するセマグルチド皮下投与(第2相臨床試験)

 糖尿病を合併した非アルコール性脂肪肝炎 NASHに対する治療薬としては、長らくピオグリタゾンのみが推奨されてきましたが、2020年の日本消化器病学会 NAFLD/NASH 診療ガイドラインより、GLP-1 受容体作動薬と SGLT2 阻害薬という 2 種類の薬剤が、糖尿病合併 NASHに対する治療薬として追加されました。糖尿病治療薬である GLP-1 受容体作動薬は、胃などの上部消化管運動を抑制する作用があり、食物の胃からの排出を遅らせて満腹感を与えることにより体重を減少させる効果が確認されており、NAFLD/NASH への治療応用が期待されています。GLP-1 受容体作動薬が血液生化学検査で肝機能を改善することはいくつか報告されていますが、肝組織の改善効果については十分なデータがありませんでした。

 著者らは、肝生検で確認されたステージ F1~F3 の肝線維化を伴う NASH 患者に対する 72 週間の二重盲検第 2 相試験を実施しました。患者は 3:3:3:1:1:1 の比で、セマグルチド(0.1, 0.2, 0.4mg)1 日 1 回皮下投与群と対応する プラセボ投与群にランダムに振り分けられました。主要評価項目は、肝線維化の悪化を伴わない NASH の解消で、副次的評価項目は、NASH の悪化を伴わない 1 段階以上の肝線維化ステージの改善でした。

合計 320 人の患者(うち 230 人がステージ F2 または F3 の肝線維化を有する)が、セマグルチド 0.1mg 投与群(80人)、0.2mg 投与群(78人)、0.4mg 投与群(82人)、プラセボ投与群(80人)に分けられました。 肝線維化の悪化を伴わない NASH の解消は、セマグルチド 0.1mg 投与群で 40% に、0.2mg 投与群で 36% に、0.4mg 投与群で 59% に、プラセボ群で 17% に認められました(0.4mg 投与群対プラセボ群で P<0.001)。一方、肝線維化の改善は、0.4mg 投与群で 43%、プラセボ群で 33% でした(P=0.48)。 体重減少割合の平均値は 0.4mg 投与群で 13%、プラセボ群で 1% でした。嘔気、嘔吐、便秘は 0.4mg 投与群でプラセボ群に比べ多く見られました(嘔気 42% vs 11%、嘔吐 15% vs 2%、便秘 22% vs 12%)。悪性新生物はセマグルチド投与群で 3 人(1%)報告され、プラセボ群ではいませんでした。全体では、良悪性を問わない新生物の報告がセマグルチド投与群で 15%、プラセボ群で 8% に報告され、特定の臓器での発生パターンは観察されませんでした。

PN Newsome et al. N Engl J Med 2020. DOI: 10.1056/NEJMoa2028395

 中規模の第 2 相臨床試験の結果ではありますが、GLP-1 受容体作動薬によって NASH の肝組織像が改善することが報告されました。残念ながら今回の報告では、肝線維化ステージの改善は確認できませんでしたが、より長期間投与することによって肝線維化が改善する可能性はありますので、今後のさらなる検証に期待したいです。

軽度の脂肪肝でさえ高い死亡率と関連する

NAFLDの死亡率  Gut Published Online First: 09 October 2020. doi: 10.1136/gutjnl-2020-322786

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のすべての段階において、全死亡率の有意な増加と関連しており、そのリスクは病気の進行に伴って増加することが、スウェーデンの研究者らによって報告されました。

 NAFLDは欧米で最も一般的な慢性肝疾患の原因であり、成人の約25%が罹患しているといわれています。患者の約 3 分の 1 は、線維化を伴う/伴わない脂肪肝炎(NASH)であり、それらは肝硬変、肝不全、肝関連死へと進展する可能性があります。

肝臓の線維化はNAFLD患者の生存を予測する唯一の重要な組織学的因子であると考えられていますが、すべての組織学的範囲におけるNAFLD患者の全死亡リスクと原因特異的死亡リスクについては明らかではありませんでした。

この研究では、1966年から2017年までにスウェーデンの28の病理部門で組織学的にNAFLDと診断された成人10,568人を、同時代の人口比較対象者49,925人と年齢、性別、郡別でマッチングし、Cox回帰を用いて解析されました。

NAFLD患者のうち、67%が単純性脂肪肝、12%が線維症を伴わないNASH、16%が線維化を伴うNASH、6%が肝硬変でした。生検時の平均年齢は52歳で、44.8%が女性でした。NAFLD患者では、心血管疾患、糖尿病、高血圧、脂質異常症を有している割合が、比較集団よりも多くみられました。

NAFLD患者の死亡は4,338例(28.6/1,000人年)、比較集団では13,911例(16.9/1,000人年)でした。多変量解析では、NAFLD患者で全死亡リスクが1.93倍高いという結果でした(95%信頼区間、1.86~2.00)。

NAFLDと死亡率の増加との間の有意な関連は、女性と男性、心血管疾患、糖尿病、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドロームの有無にかかわらず認められました。

死亡リスクはNAFLDの重症度が高いほど有意に増加しました。対照群と比較して、NAFLDの4つのサブタイプ(単純性脂肪肝、線維化を伴わないNASH、線維化を伴うNASH、肝硬変)すべてで全死亡率が有意に上昇していました。これは男女ともに、心血管疾患、糖尿病、高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドロームの有無にかかわらず同様でした。

NAFLD患者の死亡率は、肝外がん(9.3 対 4.8/1,000人年)が有意に高く、次いで心血管疾患(8.3 対 6.9/1,000人年)、肝硬変(2.8 対 0.2/1,000人)、肝細胞がん(1.3 対 0.1/1,000人)の順でした。

 今回の研究で、すべての組織学的範囲のNAFLD患者において、肝関連死やそれ以外の死亡などを含む有害な転帰と関連していることが示されました。健診などで脂肪肝を指摘された人は、そうでない人に比べて、死亡リスクが高いという事実はきわめて重要であり、すべての臨床医、患者、政策決定者が知っておくべきことだと思います。